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長谷川和夫先生 ありがとうございました

 2021年11月13日、長谷川和夫先生が92歳でお亡くなりになりました。本当に悲しいことですが、安らかに眠られていた先生は、ご自身が神様のもとに行かれることを受け入れられたのだろうと思わせるような穏やかな表情をされていらっしゃいました。そして今は、顔が見えなくても声が聞けなくても、日本中で先生を慕う一人ひとりの心の中にずっと寄り添い見守ってくださっているような気がします。

 先生は認知症介護研究・研修東京センター センター長時代、講演で全国を東奔西走してこられました。私は有り難いことに同行させて頂く機会が多く、会場の熱気をいつも感じていたのですが、先生は介護職の皆さんを包み込むように優しく語りかけ、時には力強く励まし応援してこられました。先生の話に、見渡せば涙を流しながら聞いている方が本当に多くいらっしゃったことを覚えています。
 一度「講演した場所を日本地図にマークしてみようかな。だいぶ真っ黒になっちゃうね」と言われたことがありました。先生は、いつも列車や飛行機の中では勉強されたり読書をされたり。講演が終わればすぐトンボ返りでしたが、一度だけ主催者の方に諏訪大社に連れていって頂き、神聖な大木の立つ凛とした空気に大変感激されていたことがありました。帰りの新幹線では駅弁を食べるのがお好きで、行く先々の駅弁を手に「美味しいね」と言って嬉しそうに食べていらっしゃる姿が今でも目に浮かびます。食後には先生のカバンの中から奥様が持たせてくださったミカンやお菓子が出てきます。私が一緒のときは必ず二人分入れてくださっていました。
 先生とご一緒する機会の中で、よく伺っていたのが絵本の中に描かれている実話のシーンです。講演会でもよく話されていましたが、なんとか絵本にしたいと先生にご相談させて頂きましたところ快諾くださり、実現までに2年以上かかりましたが、最終的に貼り絵作家の池田先生が醸し出す温かな絵と長谷川先生の読者に伝えたい思いが自然に溶け込んだ作品になったことはこのうえない喜びです。


池田げんえい先生と絵本の打ち合わせ
池田げんえい先生と絵本の打ち合わせ

 2017年に先生が認知症であることを公表されて以降は、ご自宅にいらっしゃることも多くなられましたが、そんな中でも弊社に度々足をお運びくださいました。「ここに来て、みんなの顔をみると安心するね」と言って、ニコニコ笑いながらみんなと昼食を食べた後にスタッフがたてた抹茶を飲むのがお好きで、いつも楽しみにしてくださっていました。

 遺言のとおりに行われた家族葬の会場には、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」が流れていました。先生のお好きな曲だったのでしょう。厳かな中に一筋の温かい光が射してくるようでした。銀座教会の高橋牧師は先生が以前会報で執筆されたという一文を紹介してくださり、「明日死を迎えるとしても、今日から幸福になっても遅くはないと思う」というわずか数行の言葉に、先生らしい生き方、考え方が込められているように思いました。

 先生は弊社の設立当初から顧問として、陰になり日向になりで応援してくださいました。それは時には厳しく、時には優しく。先生から頂いた「一心」という言葉を、私たちは今も大切にしています。
 ぱーそん書房は今年6月に10周年を迎えます。設立にあたり先生が付けてくださった「ぱーそん書房」という社名と大樹のロゴマークには、「私たち5人は地面の一隅に種をまいた。そこから小さな芽が出て、その芽が育って、やがて木になり林になった。私たちは、もし、どんなことがあっても何かが起こっても、しっかりと大地に根を張り健気に生き残って林を守っていく。そして例えば、林を沖から眺めたとき、それは富士山を背景にした美しい絵のようにみえる。これが私たちのぱーそん書房だ。志をもつ仲間が一人、また一人と増えても、多くの人々に喜んで頂ける書籍を創っていくのだ。過去の歩みを糧とし、大切な今を基礎に、明日の未来に希望をもって前へと進みたい」という先生の思いが込められています。
 まだまだ未熟ではありますが、これからも見守っていて頂けるよう、先生の思いに恥じない会社として一歩一歩歩いていきたいと思っています。本当にありがとうございました。
山本美惠子とスタッフ一同

備前にて 事務所にて
2019年7月 事務所にて(奥様は下段右側)